赤坂インターシティコンファレンスがお届けするコンファレンスフォーラム「赤坂 MAKES GOOD IDEAS」。コロナ禍を経て、多くのオフィスワーカーの働き方も変化しました。2023年2月21日に開催したフォーラムでは「『今、働く場所を考える』-我々が今やらなければならないこと」をテーマに、お二人の識者にこれからの働き方やオフィスの在り方について伺いました。講演内容をアーカイブ記事としてご覧いただけます。
Text: Mika Iwasaka
講演 1:逆参勤交代で加速する働き方改革と生き方改革
講演者:
三菱総合研究所 主席研究員
松田 智生 氏
(講演日:2023年2月21日)
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私は三菱総合研究所で地域活性化、アクティブシニア論を専門として国や自治体、企業に提言しています。今日は「今、働く場所を考える」というテーマで私の提唱する「逆参勤交代」について話したいと思います。逆参勤交代で生きがいを持つコミュニティを作ることを提唱し、実践しています。
令和の逆参勤交代
江戸の参勤交代は1630年代に徳川家光によって制度化されました。制度として大変なこともありましたが、メリットもありました。参勤交代によって、当時何もなかった江戸に関係人口が増えました。そして、江戸に藩邸が、全国に街道が整備されました。この参勤交代を逆に行えば、首都圏から地方に人が流れ、サテライトオフィスや住居の需要が増え、IT化が整備されます。
令和の逆参勤交代とは、都市部社員の地方での期間限定型滞在のことです。私は地方への移住や転職は無理ですが、パソコンとスマホがあれば数日または数週間のワーケーションが可能です。実際に、北海道から九州まで全国15カ所で逆参勤交代の実証実験を行ってきました。人口が減少する日本で、都市部と地方での人材の争奪戦ではなく、人材の共有を促します。逆参勤交代者が地方に行き、その地域の課題解決に参加してウェルビーイングを高めることで、企業にとっては社員の定着率を高めることに繋がります。
個人・地域・企業の三方よし
我々都市部のビジネスパーソンが地方でどんなことに貢献できるのでしょうか。地方の企業のオーナー社長や自治体の市長や町長に向けて、都市部人材ができることはたくさんあります。素早くプレゼン資料を作る、IT投資の見積もりを比較して価格を交渉するなど、経営者の思いの言語化や見える化の能力などを活かし、課題解決に取り組むことでビジネスパーソンはモチベーションアップに繋がります。
逆参勤交代の一例として、大手メーカーの東京支社長のMさんは長崎県壱岐市に行きました。自社のQRコード技術を利用して、空き家や観光資源の活用に利用しようという提案が市役所に評価されました。その後、地域課題解決に目覚め、副業で北関東の中小企業の工場の現場改善の仕事も始めました。Mさんはやり甲斐として、大企業では得られない社長の右腕感があると挙げています。このように、逆参勤交代は個人、地域、企業に三方よしの効果をもたらします。
地域における関係人口増と消費増
地域へのメリットは、地域の関係人口が増えることによって消費が増えます。インフラが整備され、ホテルや旅館、交通機関の稼働率が上がります。江戸時代の参勤交代と一緒ですね。大企業に勤めるビジネスパーソンは首都圏と近畿圏で約1,000万人いると言われています。そのうちの1割が1か月逆参勤交代をすれば消費ベースで1千億円を創出すると言われています。令和の逆参勤交代で多面的な経済効果を起こすことを期待できるのです。
現在、ワーケーションやサテライトオフィスを利用しているのはIT、ベンチャー、フリーランス、意識の高い若者というスモールボリュームに留まっています。ポイントはマスボリュームを動かすことです。東京の大手町、丸の内、有楽町地区には就労人口が約28万人もいます。その1割、1%でも動けばマスボリュームが動くことになります。この赤坂インターシティにいる方々が普通に逆参勤交代できるように、制度化が必要だということを提唱しています。
SDGs関連投資で株価が上がる
そして、逆参勤交代はSDGsとも親和性があります。弊社三菱総研の理事長であり元東京大学総長の小宮山宏が述べていたことですが、大企業の社長が今一番気にしているのはSDGsを見据えたESG投資が株価に影響を与えることです。逆参勤交代の活動が間接的にESG投資を促すことに繋がるわけです。
私はバケーション型のワーケーションには大反対です。休む時は休めばいいと思います。せっかく地域に行くのであれば、地域の方と交流する「コミュニケーション」、地域のことを学ぶ「エデュケーション」、地域に貢献する「コントリビューション」、地域で新事業を創出する「イノベーション」という形が、逆参勤交代が目指すワーケーションです。
逆参勤交代の実現に向けて
逆参勤交代を実現するために必要なことがいくつかあります。都市と地域がそれぞれどのような人材や課題を抱えているのか実はお互いよく分からないという、情報の非対称性を解消させるための官民のプラットフォームづくりが必要です。また、費用対効果の見える化も求められています。
逆参勤交代に行っている間、私が自分のバイタルデータを測定すると副交感神経優位になって、明らかにストレスが軽減されていることがわかりました。こうした具体的なエビデンスが見えるといいですね。さらに、逆参勤交代を導入する企業に対する減税や補助などの制度設計が必要になってきます。
逆参勤交代は働き方改革、住まい方改革、生き方改革に繋がります。企業にとっては、社員の定着、採用、健康、SDGsあるいはローカルイノベーションなど多面的な効果をもたらします。さらに、個人の成長、地域の活性化、企業の新たな人材育成という三方よしももたらします。私の話で赤坂インターシティコンファレンスに集まった皆さんが一歩踏み出すきっかけになれば、講演者としてこれほどうれしいことはありません。
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